頭痛のたね


人類が抱えている最も古い悩みの一つに「頭痛」がある。

 文字通り「頭痛の種」は日常生活の中でのちょっとした悩みで、誰しもが持っているものであり、医学的に重大な病気にかかっているのはまれである。

 一般には心配事ができると考え込んだりして体の動きが少なくなり、その結果、頚部から肩にかけての血流を悪くし、発痛物質がたまって頭痛を起こしてる場合が多い。

 最近、若者にも結構、頭痛持ちが多く、ひどい人は年に数回頭痛のために入院したり、深夜救急車を呼んで鎮痛剤の注射を要求したりする人もいる。これは完全に鎮痛剤の中毒になってしまっている。

 このような若者をよく診ると、姿勢が悪く体をいつも動かして落ち着きがない。これでは会社内でも周囲との折り合いが悪くなり、これが知らず知らずストレスとなって血管を収縮させ、頭痛の原因になっている。

 このような若者の頭痛を治すのは鎮痛剤や血管拡張剤などの薬ではなく、カウンセリングを充分に行い、「はい」という返事の大切さ、運動によって正しい姿勢を保てる筋力を鍛えることの大切さを本人によく知らせることである。

 頭が痛いときに「痛み止め」という対症療法を繰り返していると、いつの間にか鎮痛剤の中毒になっている。それが「頭痛持ち」の正体である。

スポーツ選手と病気


阪神タイガースが優勝を目前にして、思わぬスランプに落ち込んでいた。スポーツ選手にスランプはつきものであるが、原因は病気とまったく同じで心身の疲労である。

 スポーツ選手の肉体は私たち一般人に比べれば並外れたものである。しかし、プロ野球選手といえ年齢的に若く、精神的、社会的に未熟な部分もあり、ストレスに対する抵抗力が弱く、よくけがをしたり、スランプに落ち込んだりする。

 このスランプという病気から早く脱出するためには、低下している心身の状態を好調時の状態に戻すことであるが、特効薬はない。肉体の疲れよりも精神面の疲れがどのような状態にあるかが問題で、開幕時を思い出し気分転換を図ることが一番の早道である。

最近、日本の病院にもいろいろな人たちがボランティアとして訪れ、患者さんや家族の人たちを元気づけ癒している。健康な人は病気と闘っている人たちと接することにより、今自分の悩んでいることがいかに小さいことであるかに気づいて幸せな立場にいることに感謝し、逆に患者さんから勇気や元気をもらうことになる。

 欧米では、スポーツ選手はよくボランティア活動を行っている。いろいろな社会を見ることにより、精神的、社会的に大人になることができる。しっかりとした人生観を持つことが、スポーツ選手の健康を支える大きな要素になっているのである。

精神社会的痛み


不登校や出社拒否による頭痛や腹痛、あるいは交通事故や労災事故に遭遇した後に起こる外傷後遺症(トラウマ)などはよく知られた精神的な痛みである。

 

 しかし、最近では好景気の時代には、経済的な裕福さでカバーされていたと思われる会社や家庭内の不和、不満が、痛みとして身体に現れる場合が多い。

 不満のはけ口があったり、言葉にして言える場合は問題ないが、我慢強く、不満の表出が不得意な人は、痛みを伴う疾患として整形外科やペインクリニックを受診し、慢性的な経過をたどる傾向がある。

 このような精神社会的な要因が大きいと思われる痛みに対しては、注射や薬などでは効果が期待できないため、病院を転々とする結果となる。

 ペインクリニックにおいて一度の神経ブロック注射で効果がなければ、専門医は患者さんの表情や動作などから診断して、精神社会的要因にアプローチするカウンセリングを依頼する。

 今まで決して口にして言ったことのないような悩みに、じっくりと焦点を当てる時間と場所の確保をカウンセリングで行うことで、痛みが軽快することが少なくない。

 同時に痛みがあるために制限されている行動も、リハビリを中心とした運動療法を導入し、身体を動かし汗を流す動作で今まで閉そくしていた思考の回路が正常に機能するようになる。

 また、そうなることで今までとは異なった行動様式や思考回路が開かれ、「痛み」という複雑かつ主観的な体験から開放される。

人材とシステム


私の友人の息子が現在、米国の大学で基礎医学の研究をしている。

 彼に日本と米国の研究生活の違いについて聞いてみると、米国では彼のボスである教授は自分でいろいろな企業などからお金を集め、部下の給料を払うシステムになっているらしい。

 教授は実績を上げお金を集めなければポストを失う、という非常に厳しい状況におかれているそうだ。だから、いろいろな指示も的確で、仕事がしやすいという。

 一方、日本では教授も部下も大学から給料が出ているため、教授は自分でお金を集める必要もなく、自分で部下を養わなければならないという責任もない。

 

 つまり、米国では教授は部下を養う経営者としての役割もしなければならないが、日本では教授はそこまでの責任は負わされていない。

 このシステムの違いは、責任範囲の広さの違いで、責任範囲が広ければ広いほどさまざまな能力が必要になり、それだけの能力は努力さえすれば自然に備わってくる。よく役職につくことを嫌う人がいるが、自分を大きく成長させるためには、より大きな責任を担って仕事に取り組めば、人は自然と成長するものである。

 政治家をはじめ権限のある人が経営責任を問われない日本では、すばらしい人格と責任感の備わった指導者は生まれるはずがない。

病気と環境


大阪出身の画家でイラストレーターの黒田征太郎氏が、先日来院された。

 私と黒田氏は、二年前の911日に米国で起こった同時多発テロ事件直後に共通の友人を介して出会った。ニューヨーク在住の黒田氏は、あのテロ事件以来、現地での体験から人生や生き方を深く考えるようになったという。そのころ、私は大阪で二番目に緩和ケア病棟(ホスピス)を新しくオープンしたばかりだった。

 緩和ケア病棟では末期がんと診断された人たちが、限りある人生を有意義に過ごせるように支援している。黒田氏はここで患者さん、その家族、ボランティア、スタッフなどと共に共同の作品を作り上げたり、病棟の壁に絵を描いたりしながら、職員、患者さん、家族、ボランティアの距離を縮め、病院の新しい雰囲気作りに協力していただいている。

 今回で四回目の来院だが、病院の壁に描かれたイラストや黒田氏の温かい人間性が次第に病院の雰囲気を変えている。

 苦悩や心配を抱えた人たちが訪れる病院にとって、病院独特の重苦しい硬いイメージは良くない。病気を癒すには、森や海岸などで味わえる豊かな自然が必要で、それが心をリラックスさせる。

 黒田氏と私どもスタッフの共同作業が、少しでも病院のイメージを変えてくれることを期待している。

ヘルペス後神経痛


体の左右いずれかの部位の神経に沿って赤い発疹ができ、強い痛みを伴う「帯状疱疹」という病気がある。

 これは子供のころ感染した水痘(水痘瘡)ウイルスが脊髄などに潜んでいて、その後に体力が低下したり、何か大きなストレスがあって免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスが増殖して一部の神経に食いつき、皮膚に水疱を作るとともに神経に傷をつけ、激しい痛みを発生する病気である。

 どの年代でも発症するが、高齢になればなるほどウイルスの勢いが強く、神経の傷が大きくなり、水疱が治っても後に強い神経痛が残る。これを「ヘルペス後神経痛」と呼んでいる。

 夜も痛みのために眠れず、人によってはがんの痛みよりも強いときがある。しかし、このヘルペス後神経痛になってしまうと、決定的治療法がない。

 予防としては、できるだけ早期に抗ウイルス剤の投与や神経ブロックを行いウイルスの増殖を押さえることである。

 特に神経ブロックは、発疹のできはじめに行うと非常に効果があり、ヘルペス後神経痛になることを予防できる。

 これは、神経ブロックにより局所の血流を改善することと、一時的に痛みを止めて痛みによるストレスから開放し、免疫力を高めるためである。

 それと同時に、運動療法を併用してうまく体力増強できれば、食欲も増し、この「ヘルペス後神経痛」という怖い後遺症を残さずに治癒させることができる。

慢性腰痛


二十歳から三十歳代までの人で慢性的な腰痛に悩んでいる人は、腰椎の形態が直線的か、または異常な前湾(出尻)になっている。これらの形態異常はもともと遺伝的に形態の悪い人であったり、後天的に使いすぎたり、肥満や運動不足のために少しずつ変形してきた人である。

 どちらにしても人間は立位で二本足歩行をしているため、この脊椎の形態異常が腰の筋肉や靭帯(じんたい)に異常な負担をかけたりして頑固な腰痛となっている。

 このような腰痛に対しては神経ブロック治療などで、まず腰部の筋肉の緊張をとり、その後、コアトレーニングという米国で最近開発されたトレーニングが非常に有効である。

 このトレーニングは背骨に直接付着している腹横筋を収縮させ、腹圧を高めると同時に背骨を一つずつつないでいる小さな筋肉を鍛え、背骨の安定化を図る。湾曲のない人には湾曲を作り、また湾曲の大きい人には小さくさせ、背骨をバランスのよい形態に近づけて腰部の筋肉に負担をかけなくする方法である。

 特にプロスポーツ選手など毎日通常以上に腰部に負担をかけている人にはこのトレーニングは有効である。

 腰骨は人間が立位で生活するため大黒柱の役割をしており、この部位を安定させることにより筋肉や靭帯にかかる負担が少なくなる。特にスポーツ選手にとっては、腰部が安定しているかどうかは選手寿命に関係する大切な問題である。

慢性疼痛


私はペインクリニック専門医として、30年間痛みを伴うさまざまな病気の治療に携わってきた。簡単に治る痛みもあれば、あちこちの専門医を訪れているが、慢性化して治っていない患者さんも多い。

 薬や注射で治る痛みは別にして、原因のはっきりしない難治性の痛みに対しては患者さんを納得させるだけの充分な時間をとり、患者さんの性格や深層心理をのぞくような高いレベルでカウンセリングできる専門スタッフなどをそろえ、試行錯誤しながら治療しなければ、原因のはっきりしない痛みを治すことはできない。

 

 現行の医療制度の下では、専門医といえども、このように充分な時間とスタッフの必要な診療行為は採算が合わないため実現することは難しく、このことが痛みのある患者さんを苦しめている大きな原因となっている。

 この問題を解決するためには、保険診療と自費診療をあわせて使える混合診療を認めることである。遠方の医師のもとに通う交通費や時間のことを考えると、患者さんにとっては近隣に充分な対応ができる専門医があれば、経済的にも時間的にもメリットが大きい。

 

 そしてさらに痛みが慢性化しなくてすむことによって、家族を含めて長期間の苦しみから解放されることになる。

 少子高齢化が世界一のスピードで進んでいる日本にとって、医療制度の抜本的改革とは何かを、もう一度みんなで考えてみる必要がある。

脳力


人間は右脳と左脳の二つの脳を持つ。右脳は左手、左足、左目、左耳など人間の左半身の神経と感覚をつかさどり、左脳は右半身をつかさどる。

 左脳には言語中枢があり、言語的、論理的な思考や行動は左脳の働きである。右脳はイメージ力、絵画的認識力などの機能を持ち、直感的な思考と行動をとる。つまり、ひらめきや創造性などは右脳の働きによることが多い。

 会議などで今までのデータに基づいて発言する人は左脳型で、データを無視してひらめきでパッとものをいう人は右脳型である。

 最近は右脳型の意見が尊重され結果を出している場合が多い。また、一般的に女性は左脳型の人が多く、右脳型は少ないといわれている。

 逆に大学のスポーツクラブの学生は8割が右脳型の人で、スポーツは理屈ではなく体で覚えることが大切であることを示している。

 プロ野球選手の投手は右脳型で、捕手は左脳型が多い。監督とコーチは正反対の組み合わせがよいといわれており、今年の阪神の快進撃は右脳型の星野監督と左脳型の田淵・達川両コーチの組み合わせも大いに影響しているのではないだろうか。

 一方、野村監督はどう考えても左脳型で長嶋監督は右脳型であるが、両氏とも参謀としては同型を好むようである。

 人をやる気にさせたり能力を伸ばすには、左右両方の脳を鍛えることが大切で、そのためにも監督・コーチは同型よりも反対の組み合わせの方が成功する率は高くなるはずである。

健康診断


私たちは健康であれば毎日楽しく働くことが可能となり、それによって収入も増加させることができる。そして、心身ともによりよい状態を保てば人生も豊かになる。

 

 この大切な健康を維持増進させる手段の一つとして健康診断がある。

 健康診断は疾病を早期に発見し、病気の進行を防ぐ予防処置や治療を可能にし、入院するほどの病気にかかる可能性を低下させ、入院期間も短くなり医療費の高騰を抑制する効果があることはデータ的に証明されている。

 しかし、日本では二十歳から六十歳までの人の約半分しか健康診断を受診していない。受診率は性別、年齢、既婚などにより異なり、また、どんな医療保険に加入しているかによっても違う。

 従業員千人以上の大企業は受診率が高く、一人から四人の企業の受診率はかなり低い。これは健康診断を受けるための補助金の多少や受診する時間的余裕などが関係している。

 受診率を高めるためには、企業や自治体からの補助金により自己負担を軽減することが必要である。

 根本的な医療改革がされず医療費の高騰や社会保険などの破綻を目前にして、私たちが若いころより定期的に健康診断を受けることにより、健康状態をチェックし、老化とともに予測される病気に対して、日頃のライフスタイルを改め、自分自身で体を守ることこそ、これからの高齢化時代を豊かに過ごす最も有効な手段である。