老いとは


ペインクリニックの外来を訪れる患者には、高齢になって背骨が曲がり、関節は変形して、全身に痛みがあり歩行も困難な人が多い。

医師に「ああ、これは老人性の痛みだからどうしようもない」と突き放されたり、「専門医に診てもらいなさい」といって紹介されて来院する。

このような患者でも、神経ブロック治療をして痛みを軽減させ、リハビリ治療で筋力をつけたり、心肺機能を改善させることにより痛みが楽になる人もいる。

しかし、独居の寂しさや家庭内の愛情不足などが痛みを増悪させる場合もあり、このような痛みに対してはブロックは効果がなく、カウンセリングで気持ちを落ち着かせることが大切だ。

このような高齢者も若いころは元気だった。ただ、人生の途中で日本が高度成長して、車社会になり食べ物が豊かになって、その結果、寿命が延び長生きできるようになり、気がつけば全身が痛くなったり、動けなくなっていたという人たちだ。

これから年を取る若者は生まれたころからどっぷりと文明社会に浸っているため、このままではひどい老後を迎えることになる。

老いるということは骨が曲がり、全身が痛くなったり動けなくなることだということを充分自覚し、良い生活習慣を身につけ、心身を鍛えたり身体の手入れを忘れないようにしなければならない。

腰痛と心理的要因


大抵の腰痛は脊椎の生理的湾曲の異常な人が、運動を怠ったり肥満になって腰部に負担をかけ過ぎた時に起こる。

しかし、若い人で肥満もなく生理的湾曲も正常で運動も適当に行っている人にも、強い腰痛が発生する場合がある。原因がはっきりしない腰痛の大部分は、ストレスなどが関係している腰痛であり、腰痛と神経症の間にはかなりの相関があることは多くのデータが証明している。

仕事がうまく進んでいない人や会社、家庭での人間関係に不満のある人たちが、腰痛という病気に精神的な逃げ道を求め、自分の失敗や不満を病気に転嫁していることが多い。このような腰痛には、一般に用いられる神経ブロック治療や薬剤の投与はほとんど効果が認められない。

会社の人間関係や家庭での親子関係のトラブルなどで、不安やイライラなどを抱えた状態が続いて身体に変調をきたしている場合が多く、カウンセラーが会社、家庭での人間関係がうまくいかない理由を明らかにし、患者の人間的成長の手助けをする必要がある。

時には会社のスタッフや家族にも協力してもらって、原因となっている問題を解決することにより、腰痛はうそのように軽快する。

腰痛という一つの病気を医療者側、家族、会社の上司などがチームで力を合わせて治すことにより、人間関係でのいろいろな気付きができ、周りの人たちも大きく成長することができる。

自律訓練法


最近、神経症患者が増えている傾向がある。これら多くの患者が訴える症状は、一日何回もする手洗いをやめられない、少しでも整理整頓されていないと気がすまない、電気やガスの確認を何十回と繰り返す、などである。そして、患者たちに共通する点は、これら問題行動によって一時的に軽減する「抱えきれないほどの不安」である。

手が雑菌で汚染されているようで不安になる、所定の物があるはずの場所にないと不安になる、出火を招くのではないかと不安になるのである。神経症患者にはいくつか有効とされる治療法があるが、心身の相関性を利用した自律訓練法は治療現場で広く用いられている。

これは、もともとドイツの精神医学者シュルツ博士によって体系化された療法である。まず、いすに座るか仰向けに寝て、軽く目を閉じ、ゆっくりと自分自身を深いリラクゼーションへと誘導する。腕や足を重く感じる重感練習に続いて、部位の暖かさ涼しさなど体温を感じたり、呼吸調整を促していく。

自律訓練法は、神経症患者に身体的な筋肉弛緩(しかん)、血管拡張、そして精神的なリラックス状態などの効果を与える。練習すれば自宅や仕事場など、自由な時間に自分自身で行える手軽さもありがたい。

また、私達が常日ごろストレスを感じる時も、手軽に短時間でリラックス状態をつくる方法である。現代社会はストレス社会でもあり、多くの場面で活用できる。

コアトレーニング


寿命が延びることは大変うれしいことではあるが、一方高齢になると、筋力や反射神経が衰え、ちょっとしたことで転倒しやすくなり、骨折を起こしたりしてそのまま寝たきりになってしまう場合が多い。

原因は人間の二本足歩行にある。持って生まれた脊椎の形態が悪かったり、背骨を支える腹筋、背筋、そして上下の背骨を直接つなぐ小さな筋群や腹部から横に走って背骨についている筋群が弱いと、背骨の安定感が悪くなり姿勢が悪くなったり、重心の位置が変わって転倒しやすくなる。

特に直接背骨を固定している筋群は、従来の腹筋や背筋強化のトレーニング法では強化されにくく、この筋群を強化するには1997年にアメリカで開発されたコアトレーニングが有効とされている。

このトレーニング法は直径5565センチほどのボールを使ったり、マット上でストレッチ、バランストレーニング、筋力トレーニングなどを行うもの。従来のどのトレーニングより下半身、特に膝へのインパクトが少なく関節を老化させずに、しかも筋力、心肺機能を高め、ストレスの緩和にもなる。そして、いつ、どこでも行うことができ、時間、費用ともに少ないという利点がある。

現在日本では普及していないが、今後効果が大きく安易にできるトレーニングとして、高齢者のみならずスポーツ選手の故障予防のためにも導入されるであろう。

ストレスから起こる病気


私たちの身体は何かストレスを感じると、脳の下のほうにある視床下部と呼ばれる重さ約5グラムの小さな器官から、その真下にある脳下垂体前葉にホルモンが分泌され、そこから腎臓上にある副腎の表層部の副腎皮質に命令が下され、副腎皮質ホルモンが分泌される。

このホルモンは糖質コルチコイドと呼ばれ、一般には「ステロイド剤」として、いろいろな病気に対して効果を発揮する薬として知られている。身体の中にブドウ糖を作り出す作用があり、血糖値を高めてエネルギーを確保し、ストレスに対応する仕組みがある。

しかし、ストレス状態が長く続くと、脳下垂体前葉はコルチコイドを分泌する命令を副腎皮質に送り続け、脳下垂体前葉から分泌されるほかの大切なホルモンの、成長ホルモン、脳腺刺激ホルモン、乳腺刺激ホルモンの分泌がおろそかになる。

その結果、発育が遅れたり、生理不順になったり、乳汁の分泌が悪くなったりする。

原因を考えてみると、知らず知らずのうちに慢性のストレスにさらされていることが多く、赤ちゃんに対するスキンシップ不足であったり、夫婦の会話不足などがストレスになっていることもある。

赤ちゃんのころから自分一人で眠る習慣をつけることも大切であるが、昔のように添い寝をして子守唄を聞かせて寝かしつけるのも子供の発育には良いのではなかろうか。

医者の仕事


私は、20年前から異業種の集まりに参加している。二十数名で、楽しい仲間の集まりだ。月1回程度勉強したり、情報交換をしたりしている。その中で、私は医師として健康の大切さを説き、健康管理について機会あるごとに話してきた。

と言っても、私自身が健康の大切さに気付いたのは、このグループに参加する2年前の40歳のときで、それまでの私は病気を治すことしか頭になく、自らの健康管理についてはそれほど注意を払っていなかった。

40歳のとき、それまでの診療所から病院へ組織を変え、大きな借金とたくさんのスタッフを抱えた。「これは病気になれないな」という経営者としての自覚が少し芽生え、私自身の背骨や血液に老化の兆しが見られたことから、「医者は病気にさせない」という考えに変わった。

そして、異業種の集いに参加するようになり、仲間にもこの考えを説くようになった。最初、グループの仲間は仕事の忙しさと若さから、運動を始める人は少なかったが、20年以上たった今、顔を合わせるたびに健康作りが話題になり、本職の私以上に熱心な人ができているのには驚かされる。

早くから運動を始めた人は、ビックリするほど若々しい心身を保っているが、中には亡くなられた方や現在病気と闘っている人もいるのは、残念である。今後も、この経験を生かして、健康管理を私のライフワークとして頑張りたいと思う。

睡眠時無呼吸症候群


最近、話題になっている「睡眠時無呼吸症候群」は、太っていていびきをかく人に多くみられる。この病気は、睡眠中に継続的に呼吸が止まった状態(無呼吸)が繰り返され、10秒以上の無呼吸が一晩で30回以上起きているものをいう。

肥満になるとあごや首の周りに脂肪がつき、空気の通る道が狭くなる。眠ると舌が沈下して気道を閉塞するため、一時的に呼吸が止まってしまうことがある。ただ、体の中が酸素不足になると、呼吸中枢が刺激され必ず呼吸が再開するので、そのまま死ぬことはない。

確定診断は睡眠ポリグラフィ検査で行う。脳細胞が酸素不足になると、交感神経が緊張して、血圧が上昇したり、脈拍が速くなったりして、睡眠が浅く、寝苦しい状態になり、睡眠不足が起こる。眠気のため集中力がなくなり、活力も低下する。高血圧など、色々病気にもなりやすい。

治療法はライフスタイルの改善が絶対的なもので、しっかり運動をして体脂肪を減らし、舌出し運動やダンベル体操で、のど周囲をシェイプアップすることが大切である。

食べ過ぎる人、飲み過ぎる人、運動をしない人は、ストレスにうまく対処できない傾向にあり、長時間ダラダラと眠り、この病気になりやすい。逆に運動をして体を鍛え、ストレスをためない人は短時間で熟睡し、疲れを残さないので睡眠障害は起こりにくい。

『健康管理』再検討を


新幹線の運転士が走行中に眠り込むという前代未聞の出来事が起きた。新聞によると運転士は33歳で体重100キロ、高血圧ということであり、睡眠時無呼吸症候群も指摘されている。

いくつかの生活習慣病が存在し、食事療法、運動療法など、生活改善をしなければならない状態とみられる。前日に飲酒し、10時間も睡眠を取っていたということであるが、本人の自己管理の甘さによる生活習慣の乱れも推測される。

航空機の操縦士や新幹線の運転士、また彼らに指示を与える管制官などの健康管理について、早急に検討の必要がある。

背骨を中心とした体型とバランス、それを支持する筋群の強度とバランス、心肺持久力、血液、ストレス度などを定期的にチェックし、ある一定時間、高度の集中力を保てるかどうかの判定をしなければならない。

また、カウンセリングを行い、高い精神状態を持続できる生活習慣が実践されているかどうかの確認をする必要がある。

健康診断で異常がないとか、若いからとか、何も症状がないからというだけで安心できない。会社側は個人の健康度について、もっとはっきりとした基準を作り、自己管理を徹底させなければならない。行政ももっと具体的な健康管理の手順を速やかに示す必要があり、またチェックのできる人材の育成を急がなければならないだろう。

人生を生き抜くために


快適な環境で飼育された動物と、野生の動物を比較すると、心臓、肝臓、副腎などの臓器の大きさが違う。飼育された動物は、野生の動物より臓器がはるかに小さいことがデータ的に証明されている。

特に、ブドウ糖を作り出してエネルギー源とし、炎症を抑えたり、気力を高めたりするホルモンを分泌する副腎の大きさに差がある。また毒物に対する抵抗力は数百倍の違いがある。

野生の動物は常に悪天候や外敵にさらされ、細菌などの毒物を食べることも多く、心身ともに常に大きな危険と接している。闘い、傷つくことにより鍛えられ、除々に心臓、肝臓、副腎などの臓器が大きくなり、それにつれて抵抗力も強くなっている。

野生動物は、自分でえさを取れなくなると三日もすれば静かに息を引きとり、動物園の動物は除々に老化して寝たきりになって死ぬといわれる。この違いは体力があって体の抵抗力が強いかどうかの問題で、体力があれば安らかな死を迎えることになる。

平均寿命八十数年の私たち日本人が、寿命一杯元気に生きるためには、幼少のころから土の上で遊び、暑さ、寒さに身体をさらして、できるだけ野生的に子供時代を過ごし、大人になってからも文明の利器に埋もれて生活をするのではなく、よく歩き、粗食を愛し、精神的にも我慢強く生活することが必要であろう。

更年期とイソフラボン


女性には50歳前後になると更年期といわれる時期がある。この時期には女性ホルモンが急激に減少し、人によっては、のぼせ、イライラ、不眠、手足のひえなどの不快な症状が出現し、体調を崩す。女性ホルモンには、血中コレステロールの血管壁への沈着を防いだり、カルシウムを骨に蓄えて骨の硬度を保つ働きがある。このため、更年期を境にして急に血管や骨の老化が進み、高血圧症、糖尿病、骨祖しょう症などによって大きく健康を害する人も多い。

 しかし、この更年期も若いころからバランスのよい食事を心がけ、規則正しい運動を続け、心のもち方を安定させることにより、免疫力が高まり自律神経のバランスがよくなり、知らぬ間に過ぎ去ることもある。

 バランスの良い食事という点から特に注目されているのが大豆食品である。大豆の中にはイソフラボンという女性ホルモンと非常によく似た働きをする成分が含まれており、大豆から作られる豆腐、あげ、ゆば、みそ、しょうゆなどを食べることで、女性ホルモンの欠乏をカバーすることができる。

 日本人の前立腺がんや乳がんが少ないのは、大豆食品の中のイソフラボンのおかげだという報告もあり、日本人の食生活を支えてきた大豆食品が米飯とぴったり合い、

アメリカでは日本食ブームになっているのもうなずける。